
ひなこ
「碇(石に定)」は、船を固定するための“いかり(アンカー)”を意味する漢字です。
訓読みはいかり、音読みはテイ。熟語では碇泊(ていはく)などに使われますが、公的な文書では停泊と書くのが正式。
本記事では、読み方・意味・英訳・語源・文化的背景・名字や熟語への使われ方までを、辞書・文化庁資料などの信頼できる情報に基づき、やさしく・網羅的に解説します。
「碇」の読み方と注意点

「碇」の基本データ(漢字表)
項目 | 内容 |
---|---|
漢字 | 碇(いかり) |
部首 | 石(いしへん) |
画数 | 13画 |
音読み | テイ |
訓読み | いかり |
主な熟語 | 碇泊(ていはく)、碇石(いかりいし) |
使用分野 | 船舶・海運・文学・地名・人名など |
備考 | 公用文では「碇泊」→「停泊」に統一(文化庁指針) |
よくある読み間違い
- 誤読①:「てい」単独使用 → 単独では通常「いかり」と読む。
- 誤読②:「ていぱく」 → 正しくはていはく(碇泊/停泊)。
- 注意点: 「碇」と「錨」はどちらも“いかり”だが、素材や時代背景が異なる(後述)。
「碇」の意味と英訳
意味

- 船を停めるために海中へ沈めるおもり(=いかり)。
- そこから転じて、「物事を安定させるもの」「拠り所」という比喩的意味も。
例:
- 「人生の碇を下ろす」=落ち着く・定住する
- 「心の碇」=支え・よりどころ
英訳(English Translation)
日本語 | 英語訳 | 用例 |
---|---|---|
碇(いかり) | anchor | drop an anchor(碇をおろす) |
碇泊 | anchorage / mooring | enter anchorage(碇泊する) |
碇綱 | anchor rope / cable | tighten the anchor rope |
“碇”=anchor と覚えればOK。熟語に応じて anchorage, mooring, cable などを使い分けます。
「碇」を使った例文集
日常会話での使い方
- 「風が強いから、この港で碇をおろそう」
- 「ここに腰を落ち着け、人生の碇を下ろした気分だ」
ビジネス・公的文書での使い方
- 海事報告書・行政文書では“停泊”表記が原則。
- 正:当該船舶は○月○日21時に停泊した。
- 誤:当該船舶は○月○日21時に碇泊した。
文化庁「公用文作成の要領」では、「碇泊→停泊」と置き換えるのが推奨されています。
「碇(石に定)」の成り立ち・語源

由来と構成
- 形声文字:左の「石」は“石製の重り”を表し、右の「定」は音読み“テイ”を示す。
- つまり「石でできた固定具」=“石のいかり”。
- 部品呼称「石に定(いしにさだまる)」から「石に定(碇)」とも書き覚えられます。
古代の碇は、実際に石をくくりつけて船を留めるものでした。
歴史と文化的背景
古代中国での使用
中国南部や長江流域では、紀元前から石製アンカー(石錨)が使用され、
「碇」や「錨」の文字がそれを表す記録が残ります。
日本への伝来と変化
日本でも古墳時代〜中世にかけて、石の碇石が港湾遺跡で多数出土。
特に元寇(1281年)で沈んだ船団(鷹島海底遺跡)からは、
木と石を組み合わせた木石碇(もくせきてい)が発見されています。
→ “碇”という字が使われたのは、まさにその形状を示すため。
文学作品での登場
- 古典文学では「碇をおろす」「碇を上げる」が“出発・旅立ち”の比喩に。
- 俳句では「碇星(いかりぼし)」が秋の季語として詠まれることも多い。
例:「碇星の影動かして潮静か」(高浜虚子)
方言・呼称
- 「碇星(いかりぼし)」は、瀬戸内・東北地方でカシオペア座を指す方言名でもあります。
「碇」が入った名前・熟語・関連語
苗字・名字
- 「碇(いかり)」という姓は、九州地方(佐賀・長崎・福岡)を中心に実在。
- 派生形:碇谷・碇屋・碇山 など。
→ “港に関わる土地”や“船乗りの家系”に由来するケースが多い。
下の名前での使用
- 「碇」は人名用漢字ではないため、名付けには使用不可(2025年現在)。
- 名字には使えるが、名(下の名前)に使う場合は法務省の人名用漢字表で確認を。
熟語・関連語
熟語 | よみ | 意味 |
---|---|---|
碇泊 | ていはく | 船が港にとどまること(=停泊) |
碇石 | いかりいし | 石で作った碇 |
碇綱 | いかりづな | アンカーをつなぐ綱 |
碇草 | いかりそう | 植物(淫羊藿)の和名表記の一つ |
碇星 | いかりぼし | カシオペア座の和名・秋の季語 |
よくある質問(FAQ)
- Q「碇」と「錨」の違いは?
- A
「碇」は石製アンカー(古代・中世)、「錨」は金属製アンカー(近代以降)。
現代では「錨」が一般的ですが、文化・地名には「碇」が残ります。
- Qビジネス文書で「碇泊」と書いていい?
- A
原則NG。行政・報道では「停泊」を使用します(文化庁指針)。
- Q「碇星」って何の星?
- A
カシオペア座の別名で、秋の季語。五つの星が碇の形に並ぶことから。
- Q地名・名字にはどこで使われている?
- A
青森県の碇ヶ関(いかりがせき)や、九州各地の「碇」姓が代表例。
まとめ:碇(石に定)を一言で整理
項目 | 要点 |
---|---|
読み方 | 訓:いかり/音:テイ |
意味 | 船を停めるための重り(anchor) |
英訳 | anchor, anchorage, mooring |
成り立ち | 石+定=“石で作った固定具” |
歴史 | 古代〜中世:石製碇、近代以降:錨(金属製) |
注意点 | 公文書では「碇泊」→「停泊」に置換 |
関連語 | 碇石・碇綱・碇星・碇草・碇屋 |
象徴的意味 | 安定・定着・よりどころ |